忘れられない言葉
竹内まりやさんの言葉、2024年4月2日『朝日新聞』「天声人語」より
以前友達が言った、忘れられない言葉があります。
それは、わたしが10年ぶりに翻訳の仕事を再開してから、初めてもらった仕事を終えた直後のこと。
何とか締め切りに間に合わせ、とりあえず原稿をかたちにしたものの、その内容が自分の目から見ても不十分であることを痛切に感じていたわたしは落ち込んでいました。
数か月ぶりに仕事から解放され、さぞやわたしが元気いっぱいだろうと思ってたずねて来た友人は、意気消沈しているわたしに腹が立ったのか、別れ際にこう言いました。
「もり子さんは、自分でもっとできると思っていたんですね!」
すぐに「違う!! このレベルではいけないとわかっているのに、できない自分が悲しいの!!!」と説明したのですが、彼女は車のドアをバタンと閉めて去って行きました。
今思えば、自分が弱っているのだから、家に来たいという彼女の申し出を断るべきでした。
彼女は、自由になったわたしが誇りに満ち、元気いっぱいだろうと思って来たがったのだと思います。
でも、わたしは彼女の予想に反して傷ついていたため、わたしが自分でもっとできると思っていたのにできなかったことで落ち込んでいるのだと誤解したのかもしれません。
その後、何度か彼女から遊びの誘いがありましたが、わたしはいまだに「もっとできると思っていたんですね!」という言葉が忘れられず、彼女に会うことを先送りにしています。
最低限このレベルが必要だと頭ではわかっているのに、自分の力では(少なくとも今は)どうやったってできないことと、自分にはできるはずだと思っていて、たまたまできなかったことは別物です。
普段登れている山をたまたま登れなかった時は、「そういうこともあるか」で済みますが、何度全力を尽くしても登れない山にまた敗退した時は、やっぱり辛い。
わたしの今の生活すべてが、力不足は重々承知だけど、精一杯やるしかないと思ってやることの連続です。
友達だと思っていた人に、それを理解してもらえなかったことが忘れられない自分は、プロの歌手である竹内まりやさんも「到達できないジレンマ」を抱えていることに、少し勇気をもらいました。
到達できないかもしれないけど、挑戦はし続けたい。
これがそんなに特殊な思いなのか、いまだにわからないままです。

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